c-wolf
「……珠羅、伽羅の様子は?」


珠羅は威濡を振り返った。


その黄色の目は人をおびき寄せるようだった。


珠羅は首を横に振った。


そして、いつものように淡々としゃべり続ける。


「以前の兄さんとは比べものになりません。お喋りだった兄さんが突然だんまりと黙り込み、仕事を放棄することが多かった兄さんが黙々と仕事に取り組む。部下たちも変わりように驚いている反面、不気味がっていました。何しろ、最近ではc-wolfの部下になったんじゃないか、なんて馬鹿らしい噂もあります。兄さんは、本当に変わりました。これも、c-wolfの力なんでしょうか」


琥露が小さなため息を漏らした。


「POLにとっても、伽羅があんなことになったのは致命傷である。普通の仕事もできるが、何よりPOLの中で数少ない肉体派だったからな」


威濡は指をポキポキと派手に鳴らした。


「くっそ。c-wolfめ!!!!」


その時、ピーンポーンパーンポーンという軽快な音が社内に響いた。


そして、


「えー……、官長のレインだよー。みんなまじめに仕事してるかい?」


というのんびりとした口調の声。


威濡が顔をしかめるのをみた珠羅が説明をしてくれた。


「大切な部下が壊れたのがよっぽど頭に来たんでしょう。c-wolfの捜査を本格的にしようとしているらしいです」


そうなのか……。


やっぱり、レインでも怒ってるんだな。


威濡がそう感心したとき、ドンドンと扉を激しく叩く音がした。


その部屋は……。


「伽羅の部屋からだ……」


珠羅の目つきが変わった。


慌てたような、焦っているような、そんな目だった。


「珠羅。伽羅の部屋の鍵は!?」


珠羅はぎゅっと一瞬唇を噛みしめたが、それを威濡が気づくはずなかった。


本当に一瞬だったのだから。


「鍵は官長が持っています。c-wolfと接して、生きている以上、むやみに外に出すことはできない、と……」


もしかしたら、本当にc-wolfの部下になったのかもしれない……。


その心配は威濡にも、琥露にも確かにあった。


それでも、珠羅の兄を心配する目をみた時、違っている、と思った。


初めてみた珠羅の感情。


人の感情は顔にはでないが、必ず目にでる。


珠羅は目にでていた。


兄を信じる、心配する心があった。
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