c-wolf
「普段は感情を表に出さないお前でも、兄の心配はするんだな」


威濡が何気なく言った言葉に珠羅が小さく笑った。


「兄は私一人だけの家族ですから」


珠羅が笑ったのを初めてみた威濡は、目を大きく見開き、どうしていいのかわからず、琥露を見上げた。


琥露は特に何も感じなかったのか、無表情だ。


それをみた威濡が慌てて琥露にささやく。


「琥露!みたか、今、珠羅が笑ったぞ!!」


「笑ったな」


「笑ったな、じゃねぇよ!!…………ちょっと可愛かったぞ」


背の高い琥露が年下の威濡を見下げた。


その目をみた威濡が気まずそうにポリポリと頬をかく。


「そういえば、威濡はまだ十五だったな……」


「な、なんだよ……」


「立派な男だ」


「……何が言いたいんだ」


「恋の一つや二つぐらい、学んでもいいころじゃないか」


「……だから、何が言いたいんだ!!」


「珠羅の笑った顔に惚れたんだろ?」


はぁぁぁぁ!?という声が館内に響いた。


何事かと珠羅が小さく眉をひそめて威濡をみた。


威濡は珠羅をみる。


「……ないないないない。誰があんな無口な女。笑った顔が可愛いだけだって!」


琥露は肩をすくめ、威濡の頭をポンポン、と撫でた。


「それはどうだか。ま、珠羅が官長に嫉妬されない程度に頑張ればいいのではないか」


威濡は顔をしかめた。


「何で官長がそこで出てくんだよ~~……」


「それはもちろん、官長がお前のことだいだいだいだいだいだい好きだからだろ。異常と言われているぞ。官長のお前好きにはな」


威濡は小さく舌打ちをした。


また部下たちが変な噂を広めている。
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