LOST ANGEL
千葉杏奈、高校2年生…いや、元高校2年生、現在は幽霊。
そんな女と何故かオレは一緒にバスに乗っている。
バスの乗客は少なかったが、オレは落ち着かなかった。
一番後ろのシートに座って、誰かが隣に座っている杏奈に気付きはしないかとキョロキョロ目を走らせていた。
当の杏奈は流れていく窓からの眺めに喜んでいた。
「あの犬可愛い」とか、「あんな家に住んでみたい」とか「今の
人、イケメン」とか…ひとりではしゃいでいる。
その様子はホントに普通の女子高生で、幽霊とは全く結びつかな
い。
だから、こうして真横に座っていても全く怖くはなかった。
姿もハッキリ見える、声もハッキリ聞こえる、触れなければいいだけだ。
触れなければ…
「ここら辺、緑が多いんだね?」
「こっちは都会の田舎って場所だからな」
優しく応える。
すると、前のシートに座っていた中年の女性が振り向いて変な顔をした。
しまった!
周りに杏奈の声は聞こえていないのだ。
完全なる独り言をかましてしま
い、変な汗をかいた。
慌てて携帯電話を取出し、通話しているようにみせかけることにした。
が…手遅れで、中年の女性はもうひとつ前のシートに移動してい
た。