LOST ANGEL
「飛ぼうと思って、ジャンプして手をバタバタさせたけど無理だったし。高い位置から飛び降りて、こう羽ばたいてみたけど結局地面に叩きつけられるだけだった」
杏奈の身振り手振りのジェスチャーが子供みたいで愛らしかった。
「叩きつけられて平気なのか?」
「生き物じゃないからね。痛くもかゆくもなかった」
「何にも感じないんだ?」
「肌に触れる感触は無し。匂いも無し。食事は出来ないから、多分味覚もないと思う」
想像の出来ないことを平然とした顔で淡々と喋る杏奈。
「…じゃあ、物を手に取ったりも出来ないってことか」
「この世のものには触れることが出来ないみたい。さっきみたい
に、乗り物OKなのは意外だった」
「チャリ、大丈夫かな?」
「乗ってみないと分からないよ」
杏奈にせかされて、オレは自転車にまたがった。
「乗るよ」
杏奈がゆっくり荷台にまたがる。
「どう?」
重さを全く感じないので、前を向いていると杏奈がどんな状態になっているのか把握できない。
「乗れた!走ってみて!」
そっとペダルを踏む込む。
自転車がちょっとフラフラしながら前進した。
「大丈夫!落ちないで乗って
る!」
耳元で聞こえる明るい声。