LOST ANGEL

「じゃあ、スピード出すぞ」

「出して出して!」

いつの間にか杏奈の腕が腰に巻き付いていた。

女の子に後ろから抱きつかれていると思うとドキドキする。

しかし腹も背中も温もりはない。

あるのはひんやりとした冷たさだけだった。

杏奈にだってオレの体温や鼓動は伝わっていないのだ。

安心と切なさが入り交じる。

「早いね」

加速する自転車。

「風が気持ちいいだろ?」

「だから感じないんだってば」

「そっか。……あっ、ケツ痛くない?」

「だから、それも感じないの」

オレの配慮がない失礼な質問に杏奈は笑って答えてくれる。

自転車をこぎながらオレは真剣に考えていた。

自分の取った行動について…。

杏奈が幽霊だと確信したとき、それほど驚かなかった自分につい
て。

彼女が泣きそうな顔をしながら「行くところがない。一緒に連れていって」と言ったことに、連れて行くことを決断した自分につい
て。

不思議だった。

オレ自身が知る深沢慧斗はこんなこと出来る人間じゃなかったはずだったから。

自分の未知の部分を何故この少女に切り開かれているのだろう。

どうして………




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