LOST ANGEL

「立派なマンションだね」

エレベーターの前で杏奈が目をキラキラさせていた。

「普通じゃね?」

「普通なの?」

「さぁ……?」

そもそも普通って何なんだろう?

「何階?」

いち早く下りてきたエレベーターに飛び乗った杏奈が声を弾ませ
る。

「8階」

「8階かぁ〜。眺めいい?」

「まあまあかな。オレは気に入ってるけど」

さっきから曖昧な返答ばかりしている。

これだから彼女できないのか?

「8階だよ!」

ボーっとしていたので扉が閉まるところだった。

杏奈は相変わらずご機嫌な様子である。

「わぁ〜…。いい眺めだね!緑が沢山ある」

自然が好きなところに共通点を見つけた。

「都内にもこんな場所あるん
だ?」

「部屋からの景色の方がここよりいいよ」

杏奈はソワソワしたような感じでオレの後を着いてきた。

部屋の鍵を開けて、とまどいながらレディーファーストをしてみ
る。

いつも兄貴がやってることだ。

腰を低めにしてドアを開け、目を閉じて部屋の中に手を差し伸べ
る。

さすがにそこまでキザなことは出来なかったが、一応手は差し伸べた。

「お邪魔しま〜す♪」

杏奈はオレのことなど全く気にしていなかった。

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