LOST ANGEL
「好きな人がいて、その人を想い続けていたり、いつか素敵な恋をしようと思っている子はピュアかもしれないけど…」
杏奈は言葉をつまらせる。
「けど?」
「わたしは違う。好きな人なんていなかったし、人を好きになんて…なりたくなかった」
まるで何かを憎んでいるように話す杏奈。
顔が見えない分、その震える声の刺々しさに心が怯える。
その夜、それっきり杏奈が喋ることはなかった。
起きているのか、寝ているのかも分からない。
ただ、いつもの暑苦しい夜が彼女の存在のおかげで涼しく感じられたのは確かだった。
でもオレは緊張して、ほとんど眠れずにいた。
目覚ましをセットすることを忘れていたため、久々に朝の光で目が覚めた。
毎朝襲ってきたあの頭痛は全くない。
「…痛くない…」
額に手をあて、呟く。
まだ目蓋が重かったが、ふと昨夜のことを思い出して、杏奈が寝ていた方に首を動かす。
ベッドの上には自分しか居なかった。
…夢?
やっぱり…夢だったのか?
そう思っていると、リビングの方から歌声が聞こえてきた。
すぐに分かった。
杏奈の声だ!
昨夜は杏奈が自由に動けるよう、ドアを開けたままにしていたの
だ。