LOST ANGEL

杏奈の地元の駅から高校のある駅はそんなに離れていなかった。

なので、平日にも関わらず人が多い。

オレは人込みに酔いそうになる。

「毎日こんな感じなのか?」

「ラッシュの時間じゃないから少ない方だよ」

オレの独り言状態の会話も気にする人がいない。

みな、せかせかと仏頂面で急いでいる。

この都会ならではの感じがとても嫌いだった。

「ここからバスだけど…大丈夫?顔色悪いよ」

「問題ない。人に酔っただけ」

あとは寝不足だ。


高校を目指すバスはすいていたので1番奥のシートに座り、窓に寄りかかる。

「眠いなら寝ていいよ」

杏奈はすぐ隣に座る。

「何分?」

「20分くらいかな」


そんな短時間で仮眠できるほど器用ではない。

しかし、久々の遠出と寝不足の身体は睡魔に勝てなかった。


杏奈と出会って、たった1日。

でも…なんだか不思議な気分になる。

そして深く考えようとすると頭がもやもやする。


千葉杏奈…


ちばあんな…



………………………





「慧斗、次で下りるからボタン押して」

「ん…?」

杏奈の声で目を覚ます。

やけに膝が冷たい。

「ピンポンして!」

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