LOST ANGEL
「偽善者だっていいじゃん。何もしないで見てるよりいいよ」
杏奈は膝を抱えて顔をうずめる。
「…泣かせないでよ」
「泣きたいなら泣けば?」
「…冗談だよ」
そう言う杏奈の声は少し鼻にかかった泣き声に近いものだった。
「何か話したいことあるんじゃない?オレで良ければ聞くけど」
「あはは…慧斗しか聞ける人いないよ」
「そう…だよな」
杏奈はこっそり涙をぬぐいながら顔を上げた。
「ちょっとさ、悲しかったんだ」
また、どこか遠くを見ながら話す杏奈。
「わたしがいなくなっても、この世は何も変わらないんだなーって思った」
笑顔をつくりながら喋る横顔をオレは横目で確認する。
「わたしがいたことなんて、いつかみんな忘れちゃうんだよね」
「もっと、人と深く関わってれば良かったってこと?」
「生きてたときは、ひとりで生きていかなきゃって必死だったか
ら、友達なんて邪魔なだけだと思ってた。…でも、わたしのために泣いてくれる人なんていなかったんだって思うと少し悲しくなっ
た」
杏奈の膝を抱える手に力が入っていた。
うっすらと瞳に浮かぶ涙が夕日に反射する。
「きっと、泣いた奴もいたよ。忘れない奴もいる」
「…いないよ」