LOST ANGEL

「まさか、兄貴が相原に惚れたとか?」

「ないない」

兄貴は本当に興味がない表情で手を振った。

「兄貴はいないの?」

「なに?」

「幸せにしたい相手」

オレは意地悪い顔をする。

だいぶ長く一緒に住んでいるが、兄貴の真面目な恋愛事情について詳しく聞いたことはなかった。


「…そういう相手の出会うって奇跡の確率だろ。今のオレにはないな」


奇跡の確率か…。


「出会いって、突然やってくるもので、求めるものじゃないから」

そう付け足す兄貴。

「突然…か」

「気付かなかったことに突然気付いたり、手遅れだったり…人生って難しいよな」

そう言って兄貴は再びタバコをくわえてベランダに出ていった。


オレは杏奈の言っていたことを思い出す。

兄貴が昔からチャラかったか?という、あの質問。

こんな歳になるまで一緒に過ごしてきたのに、兄貴の本当の姿を今になって初めて見たような気がした。

杏奈に出会わなかったら、きっとずっと気付かずにいたのかもしれない。


奇跡の確率。

オレが杏奈と出会ったのは奇跡なのか?

霊能者でもないのに、幽霊である杏奈をハッキリ見えるのは何故
だ?

奇跡なのか?

< 86 / 89 >

この作品をシェア

pagetop