ふわふわのシフォンケーキ

美幸様の演奏するするカノンはフォルッシモもメッゾピアノも全て無視した演奏で、弾くスピードもゆったりしていたり、突っ走ったり。

なのに、とても綺麗に聞こえてしまう。

そんな中、美幸様は演奏をストップさせ勢いよく立ち上がった。
その反動で倒れた椅子を元に戻し楽譜を片付ける。

「美幸様っ」

私の呼び掛けに応えず、スタスタと何処かへ行こうとする美幸様。

「美幸様――っ!」

私は美幸様の右腕を掴み引き寄せた。
一瞬、驚きの表情を浮かべるものの、すぐに無愛想な顔に戻ってしまう。

「美幸様っ・・・・・・」

「・・・・・・」

「美幸・・・・・・さま?」

美幸様は黒い瞳から涙を流し俯いた。

「どうなさいました?」

美幸様の涙をハンカチで拭きながら問いかければ、

「馬鹿・・・・・・ゆうたの馬鹿、馬鹿、馬鹿っ」

とポカポカ叩かれてしまう。
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