私の好きな人は駐在さん

今、交番の前を通るために駅とは逆方向に歩いてきた。
すなわち、もう一度、駅へいくために交番の前を通ることができるわけで。

今さっきみたばかりなのに、もう見たくなっている。
あの、姿を。
さっきお菓子をもらって食べたのに、もう新しいお菓子をおねだりしている子供みたいな気分。

よし、もう一度。平静を装って……

そう心に誓い、くるっと元来たみちを歩み始めた。


交番まで、あと、数十メートル。
走ってもいないのに、心臓が踊りだし、歩調も心なしか早まる。

交番の入口前に差し掛かり、中をのぞいた。
しかし、さっきのあのすがたは、そこにはもう、なかった。

あれ……いない。
どこかへいったのだろうか?奥の部屋だろうか?
あくまでも自然体を装うのだから、足をとめるわけにはいかないが、やっぱり少し気になる。
少し、少しだけ。
少し足を止めて、中をじっくりと見渡してみたが、やはり、姿は見えなかった。


「何か、ご用ですか?」

いきなり背後から声がして、今にも心臓が口から出そうになった。
なにかいたずらを内緒でしていて、それが見つかったこどものような気持ちがした。

声のする方をそろそろと、恐る恐る振り返ると、
そこには、
中にいるはずの、彼が立っていた。


< 44 / 67 >

この作品をシェア

pagetop