私の好きな人は駐在さん
小さな交番は、ドアを閉ざしたまま、いつもと同じようにそこに存在していた。
中を覗こうとしたけれど、なんだか、恥ずかしいやら気まずいやらで、躊躇われる。
目の前を通り過ぎながら、さりげなく中を覗うという手段に出ることに決めた。
交番の前で、少し歩調をおそめ、できるだけ平静を装って、ドア越しに、中をのぞいた。
いくら平静を装っていても、十分怪しかったかもしれない。私は動揺したり、緊張するととんでもなく動作がぎこちなくなるのだ。周りに誰もいないことを祈りながら、目をやった。
「あっ……。」
思わず小さく声が漏れてしまった。
あの日以来、心に浮かび上がる、あの姿がそこにはあった。
何か、書いているのだろうか、下をむいたまま、ペンを走らせていた。
帽子はかぶっておらず、黒色ではありながらも少し色素の薄そうな、柔らかそうな髪の一部がピン、とはねている。なんだか、そこが異常に愛らしく感じてしまった。
さりげなさを装うつもりが、思わずその場に立ち止まってしまいそうになる足を必死に先へとすすめた。
居た。今日も、居た。
あの、伏せた時の涼しげな顔。美しいというか、可愛らしいというか。
完璧なように見えて、実は少し抜けているような。あの髪の毛みたいに。
一気に心に温かい何かがひろがっていく。寒い中、外から帰ってきて、あまーくてあったかいココアを飲んだ時みたいに、ほんわかとして、おだやかで、幸せな気持ちに満たされた。
その余韻を残しつつ、交番を少し行き過ぎたところで、足を止めた。
その場で少しその余韻に浸ることにした。
空からの太陽の日差しが、より一層私を暖かく、ほんのりとさせた。