ビロードの口づけ
 気になって眠れないまま、明日を待つなんてできない。


「では、あなたが部屋に入ってください」


 背中を向けようとしていたジンが一瞬驚いたようにこちらを向いた。
 しかしその表情は、すぐにいつもの意地悪な笑顔に変わる。


「やけに積極的だな。オレを警戒していたんじゃないのか?」


 ばれている。
 あれだけあからさまに二人きりになるのを避けていれば当然とも言えるが。


「窓を閉めては話ができません。明日ではなく今訊きたいんです。他意はありません」


 最後の一言を特に強調する。
 ジンは諦めたようにフッと笑った。


「わがままはお嬢様の特権か。ちょっとそこをよけろ」


 言われた通りにクルミが窓から離れると、ジンは窓枠に片手をついて跳躍し、ヒラリと足音もなく部屋の中に入ってきた。
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