ビロードの口づけ
 たとえ約束していたとしても、どうして五年も経った今になってやって来るのか分からない。

 首を傾げるクルミにジンはあっさりと告げた。


「約束の日が近いからだ」


 聞き覚えのある言葉にハッとなる。
 兄は仕事の契約だと言っていたが、焦ってごまかしている様子が気になっていた。
 どうやら獣たちと関わりがあるようだ。

 ジンは何かを知っているらしい。
 兄が隠そうとしていた事を教えてくれるだろうか。
 クルミは慎重に言葉を選びながら問いかけてみた。


「約束って?」
「領主の娘が知らないのか?」


 ジンが意外そうに目を見張る。
 それがクルミにも意外だった。
 兄ではなく父に関わりのある事らしい。
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