ビロードの口づけ
 兄がソファから立ち上がり、クルミに歩み寄ってきた。
 優しく微笑んでクルミの頬に手を添える。


「クルミ、父さんが僕を認めてくれたよ。ようやく君を僕の花嫁にできる。子どもの頃から君だけを見てきた。これからも君だけを大切にするよ」

「お兄様……」

「お兄様じゃなく、これからは名前で呼んでおくれ」


 愛おしげに頬を撫でる手を振り払うように、クルミは激しく首を振った。


「お兄様。私……」


 ジンと交わった自分は、兄の花嫁になる資格がない。
 元より兄の事は兄としか思えなかった。
 それは今も変わらない。

 そして自分が生涯愛を捧げようと思ったのはジンなのだ。
 それを伝えなければ——。
< 166 / 201 >

この作品をシェア

pagetop