ビロードの口づけ
 背筋をゾクリと悪寒が走る。
 逃げようにも身体が硬直して動けず、声も出ない。

 獣はクルミを目がけて駆け出した。

 次の瞬間、横から飛びかかったジンが、獣の首を片手で掴み、押さえ込んでいた。
 あの細い身体のどこにそんな力が宿っているのか、獣はジタバタともがくばかりで、ジンを振り払えずにいる。

 ジンが獣を見下ろして冷酷な笑みを浮かべた。


「オレから逃げられると思っていたのか?」


 そしてためらう事なく、獣の胸に手を指から突き立てた。
 骨が砕けるような音に目眩がしそうになる。

 獣は少しの間弱々しく四肢をばたつかせた後、やがて動かなくなった。

 それを見届けてジンは手を引き抜き立ち上がった。
 そして薄笑いを浮かべながら何食わぬ顔でクルミの元へ戻ってくる。

 月光に照らされ赤黒く染まった手から鮮血をしたたらせながら。
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