ビロードの口づけ
「どうかしたんですか?」
「なんでもないの」


 ジンに辱めを受けたなど、男の子に言えるわけがない。
 無理矢理笑顔を作ってごまかすと、コウは困ったように眉を寄せて苦笑した。


「無理に笑わないでください。言いたくないなら訊きませんけど、泣くような事があったんでしょう?」


 クルミは黙って俯く。
 少ししてコウが遠慮がちに尋ねた。


「もしかして、ジン様に何かきつい事でも言われたんですか?」


 何か言われる事など日常茶飯事だが、どうしてコウはその事を知っているのだろう。
 クルミ以外の前で、ジンは猫をかぶっているのに。

 ハッとして顔を上げたクルミに、コウはニッコリ笑いかけた。

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