ビロードの口づけ
「あ、当たりですか?」
「どうしてわかったの?」

「だってカイト様がクルミ様を泣かせるわけはないし、優秀で頑張り屋のクルミ様が勉強の事で泣くとは思えないし、だったらジン様かなって。オレって間抜けだから、時々手厳しい事言われたりするんですよね」


 そういえば、ジンはコウの事をポンタ呼ばわりしていた。
 朝、コウのいる前でも態度が横柄なままだった。
 クルミ同様コウの事も見下しているから、素のままなのだろう。

 ジンの意地悪な本性を知る仲間がいる事にホッとして、クルミは微笑んだ。
 コウも嬉しそうに笑う。


「やっぱりクルミ様は笑っている方がいいです。オレじゃ頼りにはならないでしょうが、昔からずっと、オレはクルミ様の味方だって事、覚えていてください」

「うん。ありがとう」


 少し気が晴れたので部屋に戻る事にした。
 クルミは立ち上がり、まだ用事のあるコウを残して出口に向かう。
 食品が並べられた棚の角を曲がった時、ギクリとして足を止めた。
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