ビロードの口づけ
 クルミは両腕に抱えたままだったジンの腕を、投げ捨てるようにして離した。


「自分の胸に聞いてください!」


 少しの間クルミを不思議そうに見下ろしていたジンは、やがていつもの意地悪な笑みを浮かべて軽く背中を叩いた。


「かくれんぼは終わりだ。部屋に戻れ」


 クルミは振り返りコウをのぞき込む。


「ごめんね、コウ。大丈夫?」


 コウは壁にもたれたまま、胸元を押さえて弱々しく微笑んだ。


「平気です」
「ほら、さっさと戻れ。ポンタは仕事があるんだ。邪魔するな」

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