ビロードの口づけ
 小柄なコウはジンの圧倒的な力に為す術もなく、足先がかろうじて地に着いている状態だ。
 首を締め付けられて苦しそうに顔を歪めている。

 これでは言い訳をしたくても口がきけない。
 なによりコウが絞め殺されてしまいそうで、クルミはコウを掴んだジンの腕を抱えるようにしながら体重をかけて引きはがした。


「離してください!」


 そのまま二人の間に立ち、ジンを睨み上げる。


「私が勝手に隠れていたんです! コウはたまたま来合わせただけです」


 ジンは少し面くらったような表情で、クルミを見下ろした。


「あんた隠れてたのか? 何でそんな事……」


 こっちが面くらってしまう。
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