ビロードの口づけ
 彼がモモカに優しい表情を向けるのも、モモカを見つめているのも、なんとなくおもしろくなかったのは、ヤキモチを焼いていたからだ。
 つまりそれは、自分がジンを好きだから。

 嫌われているのだから好きになってもしょうがない。
 そう思って目を逸らしてきた自分の気持ちを、ジンは残酷にも目の前に突きつける。


「あんた、オレが好きなんだろう?」


 冷たい瞳で見つめられ、意地悪な事を言われても、本気で嫌だと拒めない。
 獣社会の話を聞かせてくれた時は嬉しかった。

 涙を舐めるためだとしても、まぶたに落とされる優しいキスは好き。

 四六時中見つめられるのが落ち着かないのも、強引に唇を奪われたり、触られて不快に思わなかったのも、全部ジンが好きだから。
 けれど——。

 クルミはひざの上に本を伏せて、ジンを真っ直ぐに見つめた。

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