ビロードの口づけ
 忘れているのなら、わざわざ蒸し返したくはない。
 クルミは慌てて目を逸らした。


「何でもありません」
「ふーん」


 気のない返事が聞こえ、クルミはホッとして本に目を落とす。
 少しして突然ソファの隣が深く沈み、反動でクルミの腰が少し浮き上がった。

 驚いて隣を見ると、いつの間に来たのかジンが座っている。
 背もたれに腕を乗せこちらを向いたジンは、意地悪な笑みを浮かべてクルミをのぞき込んだ。

 クルミは開いた本を両手で掲げ、ジンとの間に壁を作る。
 本の上から目だけ出して、ジンに尋ねた。


「何ですか?」
「あんた、さっきモモカにヤキモチを焼いていただろう」
「そんな事……!」


 口では否定しながら、ジンの言葉がストンと胸に収まった。
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