ビロードの口づけ
 部屋を出たジンは苦々しげにライを睨んだ。
 その様子を見てライはおもしろそうに笑う。


「何の話だ」
「廊下で立ち話っていうのもねぇ」


 ジンは舌打ちして歩き始める。


「オレの部屋に行こう」


 ジンの後ろについて歩きながら、ライはずっと笑いをかみ殺している。
 それがジンの神経を逆なでした。

 ちょうど部屋の前に着いた時、向こうからやって来た侍女のモモカに出くわした。

 ライの姿を見て会釈をすると、彼女はジンに声をかけた。


「お客様にお茶をお持ちしましょうか?」
「頼む」
「かしこまりました」


 軽く頭を下げてモモカは立ち去った。
 ジンが部屋の扉を開けて振り返ると、ライはモモカの後ろ姿に見とれている。
 更に苛つきながら、ジンはライを促した。


「女に見とれてないでさっさと入れ」


 二人で部屋に入り扉が閉じられた途端、ライはこらえきれずにクスクスと笑い始めた。


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