ビロードの口づけ
「そんなに警戒しなくてもカイト様は人間だよ。クルミ様を取って食ったりしないよ」
「そんな事は知っている。だがあいつはクルミの自称婚約者だ」
「私と違って紳士だから心配ないって」
「おまえは女に見境がなさ過ぎる」


 ジンが吐き捨てるように言うと、ライはおどけたように目を見張った。


「失敬な。一応、人間の女は香りで選んでるよ。さっきの子もなかなかよかったけど、クルミ様は桁違いだな。側にいるだけで酔ってしまいそうだ。君はよく平気だね」
「おまえほど鼻が効くわけじゃないからな」


 ライの本性は狼に似た獣だ。
 鼻が効くので獣よけの香水はあまり意味をなさない。

 モモカの香りは香水にかき消されていてジンにはほとんどわからないのだ。

 女に見境のないライだが、人間の女と交わる事はない。
 本人曰く寸止めだという。

 もっとも交われば獣には匂いでばれてしまうので、誰かに密告されて粛清されてしまうだろう。
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