ビロードの口づけ
 心配そうに瞳を揺らしていたコウは、クルミの意を汲み頭を下げて部屋を出て行った。


「倒れたんだろう? 大丈夫でも診てもらえ」


 冷めた表情は変わらないものの、心配するような口ぶりが意外だ。
 側にいながらクルミの体調不良に気付かなかったら、自分の失態になるからだろうか。

 そんな事より、クルミはどうしてもジンに訊きたいことがあった。


「あなたを呼びに行ったから気分が悪くなったんです」


 意味は通じたのだろう。
 ジンの面に見慣れた意地悪な笑みが浮かぶ。


「見たのか。のぞきとは、いい趣味だな。お嬢様」

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