ビロードの口づけ
「思い出させてやる。オレに手を上げた罰だ」
「いやっ……!」


 逃れようともがくクルミをものともせずに、ジンはクスクス笑いながら髪をかき上げてうなじに指を這わせたり、耳を甘噛みしたりする。

 このままでは、またジンの思うままに翻弄されてしまう。
 気を逸らそうとクルミは話しかけた。


「誘われたら、あなたは誰にでも応じるのですか?」
「そんな事はない。ライじゃあるまいし」
「じゃあ、どうして……」
「奥様は強い香りを持っている。あんたほどじゃないけどな」


 コウの言っていた通りだ。
 という事は、五年前の獣が狙っているというのも本当なのだろう。


「オレは力を得られる。奥様は快楽を得られる。互いに欲しいものが得られるんだ。合理的だろう?」

「人間の女と交われば粛清されるんでしょう?」
「オレに掟は適用されない」


 獣の血が流れていても、ジンは完全な獣ではないからだろうか。
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