30 thirty~恋する大人のものがたり

act3・・・手をつないでもいいですか

俺が車を走らせたあとの山田魚店がどうなったかは

もう知ったこっちゃ無い。



とにかく桜井を自宅に戻すほうが先だ。




せめて遅咲きならば

自らに選ばせてくれないか、恋人くらいは。

唐突過ぎるじゃないか、これじゃあさ。




「先生、なんか怒ってる?

 突然会いにきちゃったのはあやまるわ

 ごめんなさい」



んあ

怒ってなんかないさ。驚いているだけ。

今は必死で6年前、桜井がまだランドセルをしょった10歳だったころ

を思い出しているさ。






当時、桜井 さくらには友達がいなかった。

登校も一人、給食も一人で食べていたし、遠足の時だって

運動会のときだって常に一人だった。



そんな孤独な彼女に

クラス全員で交換日記をしないか、と提案した。

桜井だってずっと一人のままでいるのを希望している訳ではないだろうし

ノートを交換していくことで桜井がクラスに溶け込めるのでは

無いかとも思ったからだった。



しかし彼女の返事はNOだった。



「先生、わたしね、先生と二人で交換日記がしたいの このクラスのメンバーとは

 仲良くしようとは思っていないの」



次の日から、桜井が買ってきたマイメロディの小さなノートを

ほぼ毎日交換した。



{{先生、今日は体育の時間に空にうかぶ雲をかんさつ

 する時間がたっぷりあったわ。

 休んでる時間はなわとびをさせたりしたほうがいいかもね}}



{{先生、今日の社会の各地の名物やとくさんひんってところは

 もっとながめに時間とったほうがいいと思う、どうせなら夏休みの宿題で

 調べさせるっていうのも手よ}}



などのような内容を書いてよこし、俺の口をあんぐりさせたものだ。



そう、桜井は賢すぎたんだ。

当時の10歳と

合わなかっただけなんだ。



授業にダメだしかよ、って随分落ち込んだぜ

当時はよぉ
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