Raindrop
ガラリと曲を変えてみると、響也が振り返ってニヤリと笑った。

それに笑みを返し、響也の弾いている曲と違うメロディで掛け合いをしながら徐々にテンポアップさせる。

「このガキどもおっ!」

……と、バンドメンバーの一人、ドラムの沢さんから怒鳴り声が聞こえてきたけれど。

でも沢さんも、マスターも、凄く楽しそうに笑いながら弾いていた。

アラフィフの2人には大変みたいだったけれど、さすがは年の功、うまく合わせてくれる。

そしてそのまま『小フーガ』へ持っていって、本当に鍵盤が壊れるんじゃないかというくらい、全力で指を叩きつけた。


終わった後は、しばらく放心状態。

こんな弾き方をしたのは初めてだった。

「和音ぇっ、よくやった!」

聴衆からの大歓声に大満足、という響也とハイタッチし、そのままの状態でドラムの沢さんに「この馬鹿どもがー!」と太い腕でぎゅうと抱きしめられ、それを少し離れた位置から見ているマスターが、自慢の口髭を撫でながら笑う。

それは、夏の終わりの夢。

僕の心に生涯残るであろう、楽しい夜だった。



< 147 / 353 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop