Raindrop
それからジャズに興味を持つようになった僕は。

営業時間の『fermata』にもいるようになった。

もちろん、中学生がこんな店に出入りしていてはいけないので、カウンターの隅にひっそりと座り、生演奏を聴いているだけだ。

最初は「橘のお坊ちゃんを夜の酒場になんて置けないよ!」と渋っていたマスターも、あまり遅くならないようにすることと、帰りは必ず西坂に迎えにきてもらうという条件付きで了承してくれた。



「いいかい西坂、このことは父さんや母さんには内緒だよ」

さすがに褒められた行動ではないため、両親に報告されると困る。

だからフランケンシュタイン似の強面執事にはそう言い聞かせた。

「……わかり、ました」

苦渋の決断、という厳しい顔をして──彼はいつも厳しい顔付きだけれども──西坂は頷いてくれた。

おかげで僕は、土曜の夜の10時頃までは『fermata』にいられた。

褒められた行動でないことは解っている。

拓斗や花音にだって話せないような、いけないことをしているのも解っている。

それでも僕は……色んな音楽に触れているのが楽しかった。


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