Raindrop
解っている。

本当に何もなくても、たとえ何かあっても、僕に弱音を吐くなんてことはしない。彼女にとって、僕はそういう対象ではない。

彼女にとって僕は、ただの生徒。

あのときの涙は、本当に──堪え切れなかっただけ。


気づかれないようにそっと溜息をついたところに、レッスン室のドアをノックする音が聞こえた。

「お兄ちゃん、終わったー?」

開けたドアの向こうから、ひょこっと花音が顔を出す。

「ああ、終わったよ」

「わーい、じゃあお茶にしよ~。なんちゃん、おいでぇ~」

花音はドアの向こうに手招きする。

すぐにドアが全開に開けられ、お茶とケーキを乗せたワゴンを押して南原が入ってきた。

「花音ちゃん、アタシのことは『要ちゃん』って呼んでって言ってるでしょー? その呼び方じゃあ、某タレントみたいじゃないのぉ」

やたらと整った顔をしている花音専属執事、南原『要』は、くねっと体をしならせた。

「……じゃあ、めーちゃん?」

小さなウサギのぬいぐるみ、五所川原を胸に抱きながら、花音は背の高い南原を見上げる。

「めーちゃん……うーん、メイちゃん? うん、メイちゃんならいいわ」

ほぼ原型がないように思うけれど……?

そう思っていると、水琴さんがクスリと笑った。

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