Raindrop
「そう言ってもらえると嬉しいわ」

ふふ、と微笑む水琴さんに少しだけ罪悪感を感じる。

水琴さんのおかげで楽しくなったというのは決して嘘ではないし、きっかけを作ってくれたのは水琴さんで間違いないのだけれども。

……もう少し大人だったなら、こんな罪悪感は感じないのだろうな、と溜息をつきながらヴァイオリンケースを閉じ、顔を上げる。

ピアノの鍵盤蓋を閉じる水琴さんの頬に、さらりと栗色の髪が落ちるのを見て、あの雨の教会での彼女を思い出す。

あれ以来一度も悲壮な顔は見せずに、『先生』として完璧に振舞っているように見える水琴さん。

だけど……本当に、大丈夫なのだろうか。

栗色の髪がかかる頬は。

もう少し、ふっくらしていたと……思うのだけれど。


「……水琴さん、最近忙しいようですけれど、大丈夫ですか?」

「え? ああ、大丈夫よ。グルコンは終わったし、コンサートもまだ先だし……。それより、もうすぐ和音くんのソロコンサートだものね。曲の構成に関しては、お母様にも相談してもう少し詰めていく予定なのだけれど。和音くんは話してるの?」

「ええ。母に要望は出しておきましたので、後で水琴さんにも連絡がいくかと」

「そうなのね。分かりました。じゃあ後は……」

いつも通りの『先生』の顔で話す水琴さんの顔を、じっと見つめる。

いつも通り過ぎて、なんだか……もどかしい。


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