Raindrop
落とした。

どこに?

さあっと血の気が引いていく。

そうだ。何故気づかなかったのだろう。

主人思いの実直な執事が、あれから一時間以上も経つのにまったく連絡をよこさない主人──僕──を心配しないはずがない。

何度も携帯に電話をかけているはずだ。

なのに僕は気づかなかった。

演奏を聴くためにマナーモードにはしてあったけれど、ポケットで携帯が震えれば気づくはずなのに。

気づかなかったのは、携帯がそこになかったからだ。

そんなことに長時間気づかないでいるなんて、なんて間抜けなんだ。


兎にも角にも、まずい。

大騒ぎになっていたりすると、本当にまずい。

拓斗や花音に嘘をついてまで繁華街で遊びまわっているなんて知れたら、彼らの信用を失くしてしまう──。


「水琴さん、すみません……」

話しかけても眠ってしまった水琴さんには聞こえないかもしれない。

けれど、彼女をこのままにしていくことも出来なくて、ベッド脇に膝をつき、耳元で声をかけてみた。

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