Raindrop
「僕、もう帰らないといけないんですが、鍵はどうしたら良いですか……」

「……んぅ?」

微かに水琴さんが反応して、こちら側へごろりと寝返りをうった。

「あの、帰らないといけないんですが……」

そう言いながら彼女の伸ばされた手の下に、ポストカードがあることに気づいた。

足元のランプの淡い光の届かない暗がりに、ぼんやりと浮かび上がる青い海の写真。

何故か目に留まったそれに手を伸ばす。

その手が、掴まれた。

水琴さんの細い手に。

「……だめ」

目を閉じたまま、桜色の唇から漏れる声。

「帰らないで……、……さ、ん……」

きゅっと、強く握られる手。

僕の視線は、握られた手からその下にあるポストカードに行く。

握られた手とは反対側の手でそれを引き抜き、淡い光に照らしてみる。

南国の青い海だった。

裏を返してみれば、知らない男女の名前が連ねて書いてあった。その下には、メッセージが。


『この間はありがとう。実は妻が君のファンで。知り合いなら食事に誘ってくれと言われているんだ。君さえ良かったら、今度』


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