Raindrop
「婚約って……何故君がそんなことを知っているんだい?」

なるべく平静を装って静かな声で訊いてはみたけれど。多分、顔は笑えていないと思う。

響也は気まずそうにしながらも、答えてくれた。

「あー……あのな。マスターんとこでも愚痴ったけど、冬休みは親父のご機嫌取りにそこら中のパーティに参加しまくってたんだけどよ……この間、一条グループの50周年記念パーティに呼ばれて行ったわけよ。そこで……見たんだよ、水琴センセー。美人ヴァイオリニストがこんなとこで何してんのかと思ったら……あれだよ。斎賀商事の娘さんだって言うじゃねぇか。そんで……紹介されてたぜ。一条グループ代表の息子、一条隆明の婚約者、だって。しかもセンセーの方が婿に貰うんだぞ」

不思議に思ったんだと、響也は言った。

確かに僕たちの学校の生徒の中では、企業同士の結びつきのための政略結婚など当たり前のようにあることなのだけれども。

世界でも指折りの大企業一条グループと、そこそこの中小企業斎賀商事とでは格が違う。

……水琴さんには失礼かもしれないけれど。

どう考えても家柄が釣り合っていないのだ。

そんな家に一条グループから婿だなんて。確かにおかしいのだ。一条グループ、そして一条隆明本人のメリットが感じられない。

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