Raindrop
エストレリータは今の僕の心情に合い過ぎていて、奏でるのが痛いくらいだ。

自分の気持ちを押し殺して、貴女の幸せだけを願って。

そんな苦しみを知っているのは、夜空に瞬く小さな星たちだけ──。


ジリジリと鈍い痛みを放つ胸に耐えながら曲を引き終わり、どきりとする。

ピアノの前に佇んでいる水琴さんは僕を見つめ、静かに、涙を落としていた。

「……水琴、さん?」

躊躇いがちに声をかけると、水琴さんはぱちりと瞬きをして、慌てて流れる涙を拭った。

「ああ、あの、ごめんなさい。……きちんと譜読みをしてきてくれたのね。とても……素敵な解釈だと、思うわ。ふふ、思わず涙が出てしまうくらい」

そう言いながらがたん、と音を立てて椅子に座り、鍵盤の上に手を乗せる。

「今度は伴奏付きでやってみましょう。今の感じで大丈夫だから……」

目を瞬かせ、涙をぐいと拭って、そうやって微笑んだ水琴さんは、静かにピアノを奏で始めた。

けれども僕は、ヴァイオリンを弾かなかった。

< 262 / 353 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop