Raindrop
弓を下に下ろし、ぎゅっと強く握り締める。

「すみません。泣かせようと思ったわけではないんです」

ポン、とピアノの音が響く。

「……ええ、分かっているわ」

伴奏を途切らせることなく弾き続ける水琴さんは優しく微笑んでいる。夜空で優しく見守る、小さな星のごとく。

それを見て、弓を構えた。

途中から入り、水琴さんと共にエストレリータを奏でる。

空で瞬く星たちと同じく、“あなた”を見守り、痛みも苦しみも知り、愛を欲しがる“あなた”にそっと囁き掛ける。


彼は。

彼女は。

“あなた”を愛していると。

ヴァイオリンで、ピアノで、痛いほどの想いを乗せて響かせあう。


決してその想いを交わらせてはいけないと、言い聞かせながら。



曲を弾き終わった後、しばらく無言の時が過ぎた。

視線も合わせることはなかった。

けれども心の中にはあたたかな、小さな星が瞬いていた。

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