誰も知らない物語
遠くでは賑やかな声が聞こえる。
なんだろう…。
でも、その答えはすぐにわかった。
…遠くに聞こえる弾ける音。
…ほんわり香る火薬の薫り。
…夏祭りだ。

「ここがいいのじゃ。」
瑠奈が指差した場所は眼下に河口湖が広がる公園の屋根付きベンチ。
「守、ここでいいよね?」
「俺はどこでも平気だぜ。」
公園の街灯も程好く届くこの場所。
まぁー俺が起きてればいい話だし、大丈夫だろ。

「私は疲れたのじゃ。」
と言って瑠奈は直ぐ様ベンチに横になった。
「瑠奈さん、私の膝使って?」
と瑠奈の隣に座る。
「いいのか?」
と遠慮深く聞くが、優香は優しく頷いた。
「ありがとうなのじゃ。」
瑠奈はそれに安心したように嬉しそうに優香の膝に頭を寝かせた。

「なによりきっと人一倍疲れてるの瑠奈さんだから…。」
俺に言ったのか…それとも瑠奈に言ったのか…。
優香はまるで妹を寝かしつけるように瑠奈の髪を優しく撫で呟いた。

静かに香る花火の薫りが一層濃くなったような気がした。

ここ数日間の夜は必ず隣に優香いる気がする。
「寝ちゃった。」
優香の膝枕で安心した表情で寝ている。
こうしてみると、どこにでもいる同い年くらいの女の子なんだけどな…。

「寝てもいいぞ、俺が起きてるから。」
人の心配ばかりする奴だ。
自分を顧みず起きてるだろう。
「ありがとう、でも大丈夫。」
そう。
こういう奴だ。

「守は?大丈夫?」
「さっき電車で寝たから。」
「私もだ。」
そういえば、俺も優香も電車で寝たんだ。
…てことは、瑠奈は起きてたのかな。

「守…私ね、今悩み事あるの。」
優香には珍しい。
悩み事うんぬんではなく、そういうことを俺に話すことが。
でも、頼られてる気がして嬉しかった。
「どうした?」
頼られた自分がなんか嬉しかった。

でも、
「私…告白されたの。」
「えっ?」
予想もしてなかった言葉だった。
そんな感じはなかったし、そんな前触れも俺は気がつかなかった。

「それで、まだ答え出してないの。」
「それで?」
悩み事を聞いてやりたいが、自分の思いがそれを受け入れていない。
複雑すぎる。

「悩むのよねー。」
と笑ってみせた。
…いや、俺だって悩むわ!
まさかこんな悩みなんて…。

「守はどう思う?」
「どう思うって…。」
いやいや、そんなこと聞かれても答えられないよ。
でも…答えなきゃ。
「どんな奴なん?」
まずは敵を知らなければ。

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