ユアサ先輩とキス・アラモード
第二章
 半年後。木々は赤や黄色に色づき、風は冷たくなり、時折吐く息が白く見えた。制服だけで通学するのが辛い時もあり、秋の深まりひしひしと感じずにいられなかった。
 真帆は寒さを蹴散らすよう全力で廊下を駆け抜け、正面玄関の下駄箱に上履きを放り込むと、ローファーをスリッパのようにひっかけ外に出た。歩きづらいのか、階段を下りたところでかかとを直し、全力を振り絞って弓道場に飛び込んだ。
 更衣室に入ると、着替え終わった一年生部員がホッとした様子で見た。
「まだ二年生来ていないよ。急いで着替えれば間に合うよ」
「よかったー。掃除長引いちゃったから、ダメかと思った」
「先に用具出しておくね」
「ありがとう!マジ助かる」
真帆は同じ一年生である佳苗と美咲の手を握ると、弓道衣や袴に着替えようと自分のロッカーへ向かった。
 すると、ある事に気づいた。
「ねえ、友紀ちゃんや花ちゃんはまだ来ていないの?」
「あれ?そういえばそうだね。どうしたんだろ」
「新人戦の出場決まってから、あの二人いつもすごく早く来ていたのに。何かあったのかな?」
真帆、美咲、鼎は不安そうに顔を見合わせた。他の一年生部員は『お先っぃー』と言って外に出て行った。
「とりあえず、先輩達来たらこまるから、私達行くね」
「うん」
「そうだ、メールとか来ていたら教えて」
「うん、わかった」
大きくうなずくと、再び着替えようと自分のロッカーへ向かった。
「そんなんだから、主力メンバーに入れないのよ」
通りすがりに言い捨てた部員がいた。ムカッとして振り返ると、ポニーテールの毛先が緩やかにウェーブした後姿が更衣室を出て行った。
「木吉樹里か。あいかわらずイヤな女!」
真帆は着替えもせず樹里のロッカーに近づくと、思いっきりアッカン・ベーをした。
「ちょっとうまいからって、エバんないでよ!あんたのおかげで、みんな大迷惑しているんだから!」
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