ユアサ先輩とキス・アラモード
「美咲ちゃん、そんな弱気でどうするのよ。戦う前から負け戦じゃない。私を弓道部に誘った時の美咲ちゃんはどこへ行ったの?あの時の自分を思い出して」
「でも……」
「大丈夫。ネットに指南本、かたっぱしから読んで探そうよ。いいアイデアが浮かぶかもしれないでしょ」
「そうね、勉強に部活、色々忙しくなりそうだけど、一日五分でもやらないよりマシだよね」
「うん」
美咲と真帆は大きくうなづいた。
「これからライバルになるけど、お互い頑張りましょう」
「ええ、潔く戦いましょう」
お互い右手を出すと、固く握手した。困難な道のりも越えていけそうな気がした。
「おおーい、ちょっと待ってお嬢さん!」
聞きなれた声がして振り返ると、シスコン男、横尾が手に手袋を持って走ってきた。手袋は美咲の物である。
「これ、君の物だよね。さっき座っていた場所に寂しそーに落ちていたよ。ご主人様、置いて行かないでぇ~って」
「あ、ありがとうございます!」
「どういたしまして。ご主人様のところに戻れてよかったな、手袋ちゃん」
横尾は真帆と美咲の顔を見て、ニッコリ笑った。
「それではお嬢様方、入部、心よりお待ちしております。ごきげんよぅー!」
最後は元気よく手を振って去って行った。そばにいた一年生にも同じように。
(なんか、ウザいかも)
真帆はゲッソリして横尾の背中を見送った。彼と二年間一緒なのかと思うと気分が激しく沈んだ。
「ス・テ・キ」
すぐそばから突然、予想だにしなかった言葉が聞こえた。真帆は胸騒ぎを感じつつも、恐る恐る左隣を見た。
「ようやく運命の人に出会ったわ。真帆と好きな人がかぶっちゃうのは辛いけど、私、絶対負けない。トルコアイスのように粘るわ。彼を手に入れるまであきらめないわ!」
そこには恋に落ちた乙女、美咲がいた。首の前で腕を組み、ウットリと見つめる姿は恋のバリアーが張られており、触れる事さえ不可能だった。
(激しく勘違いしてるーっ!)
真帆は先ほどの横尾のように頭をクラリとさせ、白目をむいて倒れそうになった。
(でも、くっついたらいいカップルになりそうだと思うのはナゼだろう?)
さらに疑問を深めつつも、好きな人がかぶっていなかった事にほっとした真帆だった。

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