ユアサ先輩とキス・アラモード
第三章
私の動揺をよそに、その日の部活もスムーズに練習を消化して行った。順調この上ない。
 ちなみに、弓道と言うスポーツは弓を射って的に当てるだけだから、上半身を鍛えればいいかと言うとそうでもない。意外と踏ん張る力が必要なので、ランニングやスクワットも練習メニューに取り入れている。
 もしまるで経験が無く入部すると、最初の三から四か月は、先輩たちが的に当てた矢を回収するなどの仕事をしつつ、筋トレや、弓だけを持って行う、矢を射るための過程である射法八節をひたすら反すうしたり、ゴム弓と言う道具を使って体を作って行く。この期間、実際に弓を射る事はできない。たとえ射ったとしても、安土と言う土に刺さるか、矢道に落ちるのが関の山。先輩や友達を笑わせるためにやりたいならいいのだが。
 その後、基礎ができたかどうか顧問の先生や上級生に判断してもらい、オーケーがでると巻藁と言う、読んで字のごとくワラを巻いた的らしきものに向かって弓を射る。おそらく多くの人が、ここで人生初めて弓に矢をつがえ射るだろう。もう、ドキドキである。人によっては高校受験並みに緊張するであろう。
 だからこそ、巻藁に矢が当たった時かなりの感動をする。やった!自分、できるじゃん!と子供のように素直にほめたたえてしまう。
 ハマってしまう。
 そして、この頃から個別に上級生の指導者が付く。運が悪いと、馬の合わない人と組みになり、地獄の部活ライフを送る事になる。馬が合えば、言わずもがな、天国ライフが待っている。社会人になっても仲良く交流している人までいる。
 つまり多くの人は、遅くとも7月から8月には射場で的の前に立ち、弓を射る事ができるようになる。
 もちろん、中学の時部活などに入ってやった事があるなら、あっと言う間に上級生と同じ練習メニューになる。
 にっくき樹里は、腹の立つ事に中学時代弓道部だった。ほとんどの一年生が地道に基礎訓練を積んでいる中、一人的前に立ち矢を射る姿は、くやしいがカッコよかった。
(それにしても、こんなに早く湯浅先輩との距離が縮まるとは思わなかったな)
ランニング、筋トレと練習をこなしながら思う。 

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