クランベールに行ってきます
「逃がすかよ。オレは王子を連れて行けば、それでいいんだ。これだけそっくりなら、しばらくは、ばれないだろう。おまえはそのまま替え玉やってな」
「私がすぐにばらすわよ」
それを聞いて青年は、思い切りバカにしたように嘲笑う。
「どうやって? 口で言ったって誰も信じるもんか。私は女ですって脱いで見せるのか? やれるもんなら、やってみな」
青年の嘲笑にムカついて、結衣は立ち上がると、彼の腕を強引に押し退け、立ち去ろうとした。
「どいて! 帰るんだから!」
青年は一瞬呆気にとられて結衣を見つめたが、慌てて腕を掴んだ。
「バカか、おまえ。逃がさないって言っただろ? 痛い目見たくなかったら、おとなしくいう事聞け」
「あなたこそ、バカじゃないの? どうして、あなたのいう事を聞かなきゃならないのよ!」
「は?」
結衣の切り返しに、青年は目を丸くして一瞬絶句する。
「だ、だから! 痛い目に遭いたくなかったら、だ!」
「だから、どうして私が痛い目に遭わなきゃならないのよ!」
「え……、どうしてって……」
青年は再び絶句して考え込んだ。——が、少しして、ハタと気付きわめいた。
「えーい! うるせぇ! つべこべ言わずに、とっとと来やがれ!」
そう言って結衣を強引に馬車に押し込もうとした。
「放してよ!」
結衣は抵抗して青年の身体を押し戻す。しばらくの間揉み合っていると、二人の間を黄色い影が通り過ぎた。二人同時にその影を目で追う。それはローザンに預けてきた小鳥だった。結衣は思わず小鳥を呼んだ。
「ロイド!」
「何?!」
青年は学者のロイドが来たと勘違いしたのか、慌てて周りを見回した。しかし、結衣の視線が小鳥を追っているのを見て、舌打ちした。
「ったく、紛らわしい名前つけやがって。ほら、来い!」
「いやっ!」
再び二人が揉み合い始めると、小鳥は青年の目の前で、視界を遮るように羽ばたいた。