クランベールに行ってきます
青年と目が合うと、ロイドはにっこりと微笑み、今度は思い切り大声で叫んだ。
「こっちだ————っ!」
耳を塞いでいても、頭が割れそうなほどの轟音に、青年は硬く目を閉じ、両手で耳を塞ぐ。
ロイドはすかさず、その腕を逆手に取ると、背中の後ろでひねりあげた。そして、人懐こい笑顔を湛え、青年の耳元で自己紹介を始めた。
「はじめまして。私はレフォール殿下の友人代表、ロイド=ヒューパックと申します」
青年は堪らず、わめき声を上げる。
「いて——っ! しかも、うるせえぇぇっ!」
ロイドは尚も笑顔のまま、他愛のない事を大声で話し続ける。とんでもない嫌がらせだ。
ロイドが嫌がらせを続けていると、通路の出口から、バラバラと王宮の警備隊が現れた。ロイドの手から青年の身柄を引き受けると、再びバラバラと王宮の中に帰って行った。
それを見送りながら、ロイドは耳栓を外し、自分の首にリモコンを当ててボタンを押した。
耳を塞いでいた手を外し、結衣はロイドに尋ねた。
「さっきの大声、何?」
「おまえが毎朝飲んでるマイクロマシンの姉妹品で拡声器だ。演説用にどうかと思ったんだか、音量調節に難があるため、実用化に至っていない」
ロイドの声は普通に戻っていた。今度のマシンも今日初めて役に立ったようだ。
ロイドは静かに結衣を見つめると、短く問いかけた。
「大丈夫か?」
「うん……」
なんとなく、きまりが悪い。またしても、ロイドのいう事を聞かず、迷惑をかけてしまった。
「行くぞ」
「待って」
背を向けようとしたロイドを追おうとして、結衣は突然ひざから力が抜けるのを感じた。