クランベールに行ってきます
少ししてロイドが目を逸らし、低くくぐもった声で笑った。
「本気にするな。そんな事をしても、のたれ死ぬだけだ。おまえはちゃんとニッポンに帰してやる。最初にそう言っただろう」
「うん……」
少しホッとして結衣は気の抜けた返事をする。それから、ふと思い出して尋ねた。
「でも、どうやって? 見当がつかないって言ってたじゃない。ついたの?」
「あぁ。遺跡の同期を利用する。おまえのいた場所の座標はわかっているんだ。装置の転送機能を拡張して、逆転送可能にすればいい。同期の最後の一回はおまえを帰すために使う」
毅然として見上げるロイドに、結衣は身を屈めて詰め寄る。
「でもそれじゃ、それまでに王子様が見つからなかったら?」
ロイドはいつものように自信満々で言う。
「誰に向かって言っている。オレは諦めない。必ず殿下を見つけ出して、おまえをニッポンに帰す」
投獄の意味がわかった。
王子が見つからないまま、結衣がクランベールから姿を消せば、いずれ王子の不在が公になってしまう。捜索責任者である上に、独断で結衣を逃がした事が知れれば、ロイドは何らかの罰を受けるだろう。
かといって、三十年に一度のこの機会を逃せば、この先三十年は結衣をクランベールに縛り付けてしまう事になる。
時間はあと二十日しかない。ロイドは自分の働きに左右される結衣の行く末を案じて、思い悩み心を乱していたのだろう。
そして多分、王子が見つからなくても、結衣を日本へ帰す決意を固めてしまったようだ。
気がつかなければよかった。こんなにも大切に思われている事に。
横柄で強引でセクハラなだけの奴でいてくれたら、何も気にせず喜んで日本に帰れた。こんなに気遣って貰っているのに、自分は彼に何もしてあげていない。何もできる事がない。