クランベールに行ってきます

9.結衣の決意



 結局、二日後の二十時までに装置の改造は間に合わなかった。
 異世界検索の際は、ローザンがタイムキーパーを務める事になっていたが、中止となったため帰された。
 次の同期は二日後の午前二時。ローザンは昼までで一旦休み、真夜中に再び来て貰う事になっている。その間もロイドはローザンの分まで作業を行うらしい。

 ロイドはあれから夜遅くまで研究室に詰めている。夕食までは結衣も研究室にいるが、結衣が起きている間に部屋に戻ってきた気配はない。
 寝てないのではないかと思い尋ねてみたら、眠らないと頭が働くわけはないからちゃんと寝ていると言う。
 結衣は他にできる事がないので、毎日ケーキを作る事にした。

 今日行われるはずだった初めての異世界検索は中止になったので、遺跡が光るところを見ようと、結衣は夜のテラスに出た。
 前に見た時は、ほんの一、二秒だったので一瞬で終わったが、同期時は十秒間発光するという。
 この先は検索に忙しくて、見る事はできないかもしれない。三十年に一度の珍しい光景を、目に焼き付けておきたかった。

 テラスに漂う甘い香りに、結衣はロイドの部屋の方に視線を向けた。手すりにもたれ、灰皿を持ってタバコを吹かしているロイドの姿がそこにあった。
 ロイドは結衣に気付いてこちらを向くと、タバコをもみ消した。

「おまえも見に来たのか?」

 そう言いながら、自室前に置かれた机に灰皿を置くと、再び手すりの側に戻って来た。

「うん」

 結衣は答えて、ロイドの側に歩み寄った。二人は並んで手すりに縋る。少し後、ロイドが腕時計を見てつぶやいた。

「始まるぞ」

 その声を合図に、街の外の遺跡に目を向けた時、青白い光が天に向かって放たれた。
 時間が長いせいか、以前見たものとは比べものにならないほど、太く明るい光の柱は、天を焦がさんばかりに高く立ち上る。
 幻想的な光景に圧倒されて見入る結衣の隣で、ロイドが低くつぶやいた。

「こんな時でなければ美しい光景なんだろうが、一回無駄にしたかと思うと忌々しい」

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