クランベールに行ってきます


 結衣も負けじと、睨み上げながら言う。

「あなた、私を連れて逃げるつもりないでしょう」
「当たり前だ」

 少しも言い淀む事なく即答するロイドに、思わずカッとなって結衣は怒鳴った。

「守るつもりのない約束なんて、しないでよ!」

 ロイドはひるむことなく持論を展開する。

「あんなものは最初から無意味だ。オレは必ず殿下を見つけ出すと言っただろう。見つからなかった時の約束なんか守るつもりはない」
「そんなの……!」

 結衣が反論しようとすると、ロイドはそれを遮るように言葉を続けた。

「詭弁だというのか? おまえの方こそ考えが矛盾しているじゃないか。オレには絶対できると言っておきながら、なぜ、できなかった時の事にこだわるんだ。あれは単なる気休めで、本当のところはできないと思っているのか? 侮辱するな」

 詭弁には間違いないが、ロイドの言う事はもっともで反論できない。結衣は項垂れて、もうひとつの疑問をぶつけた。

「好きになるなって、どういう意味?」
「そのままの意味だ」

 また、はぐらかそうとしている。結衣は顔を上げて再び怒鳴った。

「できるわけないじゃない! 好きなんだもの! あなたはできるの? 言われたからって気持ちを変えられるの? 私に好かれて困るんなら、優しくしないでよ! 抱きしめないでよ! キスなんかしないでよ!」
「そんなの、オレの勝手だ」

 怒ったようにそう言うと、ロイドはメガネを外しながら、片腕で結衣を強引に抱き寄せ、荒々しく口づけた。

「バカ! 大嫌い!」

 結衣はロイドを突き飛ばし、平手を振り下ろした。


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