クランベールに行ってきます


 結衣は思わずにやけてしまう頬を両手で押さえ、机の上の紙に視線を落とすと、ペンを取った。
 すると、研究室の扉がノックされた。珍しくロイドが気づいて返事をすると、扉が開きローザンが様子を窺うように顔をのぞかせた。

「なんだ、おまえか。よそよそしい」

 ローザンは笑顔で頭をかきながら部屋に入ると、後ろ手で扉を閉めた。

「いやぁ、取り込み中だとマズイと思って」
「何を想像している。エロ医者め」

 毒づくロイドに、ローザンはため息をつきながら、結衣の元に歩いてきた。

「あなたに言われたくありませんよ。はい、ユイさん。鎮痛剤です」

 ローザンは笑顔で、白い小さな紙袋を結衣に差し出した。

「ありがとう」

 結衣はそれを受け取り、中を覗いた。ハーブの甘い香りが鼻をつく。この香りはカモミール? 見ると袋の中には丸いキャンディが三つ入っていた。
 結衣が不思議そうにローザンを見上げると、彼は一層微笑んだ。

「ぼくはこれが、案外効くんですよ。特に、ここにね」

 そう言って親指で自分の胸を指した。そして、こっそり結衣に耳打ちする。

「ロイドさんにいじめられた時、服用してください」

 結衣がクスリと笑うと、向こうからロイドが怒鳴った。

「何をコソコソやっている。さっさと仕事に戻れ」
「はいはい。ちょっと話してただけで、そんなにヤキモチ焼かなくても……」

 ローザンはブツクサ言いながら、ロイドの側に戻る。待ち構えていたように、ロイドがローザンの額を叩いた。

「誰がヤキモチ焼いている」

 二人は尚も言い争いながら席に着いて、それぞれの作業に戻った。


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