クランベールに行ってきます


 他の遺跡の装置は、目の前にある物より、柱も円盤も一回り小さいという。そして、装置の真上の天井には丸い穴があり、空が見えている。その穴から、時々天に向かって光を放っているのだ。
 当然操作パネルなどないし、壁には文字が刻まれていない。そのため、装置が何なのか分からなかったのだ。

「これ、やっぱり文字なの?」
「古代文字だ。オレにはほとんど分からない。ブラーヌに解読して貰おう。あいつ、まだ家にいるかな。しばらく資料の整理をするとは言っていたが……」

 独り言のようにつぶやきながら、ロイドはポケットを探り通信機を取り出した。片割れをローザンに渡してある黒い方だ。それを眺めて、ロイドは小さく舌打ちした。

「やはり地下じゃ通じないか……。仕方ない。一旦上へ出て、ローザンにブラーヌを足止めして貰おう」

 結衣は少し驚いて、奥の方を指差した。

「先に奥を調べないの? あ、もしかしてブラーヌさんしか古代文字を読めないとか?」
「いや、そうじゃないが。こんな大発見、遺跡が大好きなあいつに、真っ先に知らせてやりたいじゃないか」

 当然の事のように胸を張って言うロイドに、結衣は思わず微笑んだ。
 変わり者だとか、親じゃないとか言ってけなしていたが、ロイドの中でブラーヌは、やはり特別な存在のようだ。

「うん、そうね。きっと、すごく驚くわよ」

 笑顔で答えて、結衣はロイドと共に先ほど下りてきた通路に向かって歩き始めた。
 通路に入る間際、名残惜しそうに遺跡の奥に視線を向ける。すると、装置の光が届かない奥の薄暗がりで、何かが素早く横切るのが見えた。
 結衣は咄嗟に、すでに通路に入っていたロイドの白衣を引っ張った。

「ロイド、何かいる!」
「何? どこだ?」

 ロイドは通路から出てきて、結衣の横に並んだ。結衣は奥の方を見つめたまま指差す。

「そこから三つめの柱の影を何かが横切ったの」
「人か?」
「わかんない」

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