クランベールに行ってきます
二人で黙ったまま、しばらくの間奥の暗がりを凝視していると、件の柱の影から何かがこちらに向かって飛んできた。
近付くにつれて姿が露わになってきたそれは、手の平ほどもある大きな昆虫だった。
ブーンと低く響く羽音に恐怖を感じた結衣が、逃れようと横を向いた時、飛んできた昆虫が腕に留まった。
腕に掴まる昆虫の細い足の感触に、全身総毛立った結衣は、半狂乱で叫びながらロイドにしがみついた。
「いやーっ! でっかい虫ーっ! 取って、取って!」
ロイドは腕から昆虫を引きはがすと、結衣の背中をポンポン叩いた。
「落ち着け。ロボットだ」
「え?」
結衣は顔を上げて、ロイドの捕まえた昆虫に視線を移した。
モゾモゾと動いている六本の足は、確かに金属製だ。丸くて赤い背中は、テントウムシだろうか。地下にいる虫には見えない。
結衣は納得してロイドから離れると、大きく安堵の息をついた。
「びっくりした。遺跡には謎の装置だけじゃなくて、ロボット虫もいるの?」
揶揄するように結衣が尋ねると、ロイドは真顔で答えた。
「いや。これは以前オレが殿下に差し上げた物だ」
「え? 昆虫ロボットって、部屋にある奴以外にもあったの?」
「あぁ。いくつか差し上げた。こいつはその内のひとつだ」
「じゃあ、王子様は、やっぱりここに来たのね」
「そのようだな。おまえの仮説は、ほぼ立証されたって事だ」
それを聞いて結衣は、棚上げにしていた最後の謎の答えを思い付いた。
「ねぇ。もしかして、王子様がジレットに教えるって言った秘密って、この遺跡の事じゃないの?」
ロイドは昆虫ロボットの腹を探り、スイッチを切るとポケットに収めた。
「目に見えるもので、見たら驚くものだったな。確かにこの遺跡はその通りだが、東屋の下の入口は、おまえが踏み抜くまで塞がれていた。それに、あそこからジレット様を案内するのは、ちょっと酷だぞ」
「そうよねぇ。ドレスを着たお姫様をエスコートする場所じゃないわよね。やっぱり、この奥を調べてみる必要があるわ。もしかしたら別の出入口があるかもしれないし」
「あぁ。さっさとローザンに連絡を取って、この奥を調べてみよう」
「うん」
結衣は改めて、ロイドと共に先ほど下りてきた石段を急いで引き返した。