クランベールに行ってきます
内心は焦って苛ついているに違いない。けれどロイドは、普段と変わりない様子で、ブラーヌの世話を焼いたり、結衣のケーキを食べながらローザンと談笑したりしている。
地下遺跡の発見はロイドの負担を増やしただけで、王子の捜索には何のメリットもない。結衣は余計な事をしてしまったようで、ロイドに申し訳なく思っていた。
毎夜キスを堪能した後も、ロイドは結衣を抱きしめたまま放さない。そして少しの間、他愛のない話をした後、それぞれの部屋に戻る。
刻一刻と終わりの日が近付くにつれて結衣は、部屋に戻りひとりになった時の寂しさが、次第に大きくなってきた。
ここ二、三日は必ず涙が溢れ出す。
少しでも長くロイドと一緒にいたい。もっとロイドと話がしたい。もっとロイドと触れ合いたい。そして何より、ロイドと別れたくない。
でもそれを口に出せば、またロイドを追い詰めてしまう。彼が平然としているように見えるのは、きっと歯止めのせいだろう。
本当のところ結衣は、ロイドが求めるなら応じる覚悟はとっくに出来ていた。
このまま日本に帰って、二度とロイドに会えなくなったとしても、彼以上に誰かを好きになれるとは思えなかったからだ。
その内、しびれを切らした親や親戚の薦めで見合いでもして、特に嫌いじゃなければ妥協して結婚し、それなりに幸せな家庭でも築くのだろう。妙にリアルにそんな事を考えていた。
だとしたら、せめて「初めて」は、自分が心底好きになった人に捧げたい。
「ロイド……」
ソファに座って、静かに泣きじゃくる結衣のひざに、小鳥が舞い降りてピッと返事をした。
結衣は泣き止み、小鳥を見つめた。
「あなたとも、もうすぐお別れね」
『ユイチャン、カワイイ』
慰めてくれているような気がして、結衣は小鳥を手の平に乗せて頭を撫でた。
小鳥は、日本にはあり得ないクランベールの科学技術で作られている。連れて帰るわけにはいかない。
結衣は小鳥のくちばしにキスをして電源を切ると、隅の机の上に置いた。そして、部屋の灯りを消し、寝室に向かった。